サンプリング周波数と周波数帯域
1)実時間サンプリング時の周波数特性
デジタル・オシロスコープの周波数帯域は、従来のアナログ・オシロスコープと比較して若干注意が必要です。デジタル・オシロの場合、周波数帯域は、増幅器の周波数特性、サンプルホールド回路の周波数特性、A/D変換器のサンプリング周波数によって決定されます。増幅器やサンプルホールド回路の周波数特性は、一定の特性で測定条件によって変わることはありませんが、サンプリング周波数は、これを変えることによって周波数特性が変わります。サンプリング周波数と周波数振幅特性の間には、通常、次のような関係があります。
これは、信号の周波数がサンプリング周波数の1/4より低ければ、信号とサンプリング・パルスの位相関係がどのようになろうと振幅は、-3dB内で捉えられるところから導かれています。たとえば、100Mサンプル/秒(MS/s)のサンプリング周波数では、25MHzの信号が-3dB以内の減衰量で捉えられます。しかし、この25MHzの信号は1周期を4点で捉えているため波形を観察するためには不十分といえます。ある程度の波形として確認するためには、1周期に10点ぐらいはサンプルしたいところです。増幅器やサンプルホールド回路の周波数特性が充分広帯域であるならば、デジタル・オシロスコープの周波数特性は、その最高サンプリング周波数で決定されます。したがって、観察したい信号の周波数成分によって、サンプリング周波数に着目しデジタル・オシロスコープを選ぶ必要があります。
また、実時間サンプリングで観測しているときは、掃引時間を変えるとサンプリング周波数が変わり、それにつれて、周波数帯域が変わりますので注意が必要です。
エイリアシング
観測信号の周波数をfwとサンプリング周波数fsがfs<2fwの関係になったとき、観測信号は別のもっと低い周波数の波形として観測されるという現象が生じます。
1-34図は、振幅変調波ですが、通常のサンプリング・モードでは(a)のように、被変調波の周波数が異常になっています。これをエイリアシング(折り返し)といい、デジタル・オシロスコープを使う上で注意しなければならない点の1つです。エイリアシングが起きているかどうかを確認する方法は、エンベロープ・モードにしてみることです。1-34図の(b)は、(a)をエンベロープ・モードで観測したもので、(a)の観測波形は、エイリアシングが起きている状態であることが分かります。また、アナログ式オシロスコープ付のデジタル・オシロスコープならばアナログ・モード(リアル・モード)にして確認することができます。また、繰り返しの現象であれば、等価時間サンプリングで観測してもエイリアシングの確認が行えます。
2)等価時間サンプリング時の周波数特性
等価時間サンプリングで観測しているときは、前述しましたように等価的にサンプリング周波数が上がっていますので、サンプリング周波数で制限される周波数特性は、はるかに向上します。たとえば、デジタル・オシロスコープDS-9122の最高サンプリング周波数は、100Mサンプル/sですが、等価時間サンプリングを用いて最高掃引(2ns/div)で観測すると、等価的に20psのサンプリング周期つまり50Gサンプル/sでサンプリングしたことになりますので、サンプリング周波数だけで判断すると12.5GHzまで再現できるはずです。しかし、増幅器やサンプルホールド回路の帯域に限界があり、これらにより等価時間サンプ リング時の周波数帯域は決定されてます。
垂直軸分解能
デジタル・オシロスコープの原理の項で述べたように観測信号はサンプリングされてA/D変換器でアナログからデジタルに変換されます。このA/D変換器のビット数によって垂直軸の分解能が決まります。
たとえば、8ビットのA/D変換器では28即ち256に、10 ビットのA/D変換器では210即ち1024にフルスケールが分解されます。分解能が高ければより原波形に忠実に再現できますし、波形データの演算・処理に際し有利になります。分解能は高いにこしたことはありませんが、その分解能に見合ったノイズレベルやビットエラーの少ないことが必要です。
メモリ長
デジタル・オシロスコープは、最高サンプリング周波数によって選別されるのが普通です。取得できる波形の時間長はサンプリング周期(秒)×メモリ長(語)ですのでサンプリング周波数が高くなると取得できる時間は短くなります。観測したい信号は、どれくらいのサンプリング周波数が必要で、どれくらいの時間を取得する必要があるのかにより、デジタル・オシロスコープに要求されるメモリ長が分かります。
たとえば、テレビ映像信号の1ライン分(63 .5μs)を200Mサンプル/sのサンプリング周波数(5ns周期)で取得するためには、63.5 μ÷5n =12700 (語) のメモリが必要な訳です。 トリガ機能の強弱によっても必要なメモリ長は変わります。
エンベロープ機能
デジタル・オシロスコープは、被観測信号からサンプリング・パルス発生点の値をA/D変換しメモリに記憶しますのでサンプリングパルスとサンプリングパルスの間に起きている波形は無視されます。
たとえば、サンプリングパルス間で起きている細いひげ状のパルス(グリッチ)は捉えることができません。これでは、論理回路の故障診断には不便で仕方がありません。エンベロープ機能は、このような欠点を補うためのものです。
1-35図と1-36図にエンベロープ機能の原理を説明するためのブロック図と動作説明図を示します。
通常のサンプリング・モードでは、被観測信号をサンプリング・パルスのタイミングでサンプリングします。エンベロープ・モードでは、サンプリング・パルス間の最大値と最小値を捉え、これをメモリに記憶する必要があります。特定区間の最大値と最小値の2つを1対にして記憶するため、最大値・最小値の検出はサンプリング周期の2倍の区間で行うことになります。
1-36図で示すように、(1)のサンプリング・クロック周期に対し、最大値や最小値の検出期間は、(2)のように2倍になります。また、最大値、最小値を交互に記憶するため、最大値と最小値を同一期間で見るのでなく、位相を180゚面しています。通常のサンプリング・モードでは(5)の●印のところがサンプリングされます。エンベロープ・モードでは、次のような動作になります。
被観測信号は、増幅器を通ったあと2つに分けられ、最大値保持回路と最小値保持回路に供給されます。最大値保持回路は、サンプリング・クロックが発生された後lowに下がり(2)、最大値保持回路の保持値をクリアします。クリア・パルスがもとに戻ると再び最大値保持回路は、保持動作を開始し(6)のように最大値保持期間の最大値を保持していきます。一方、最小値保持回路も同様に最小値を保持し続けており、この間スイッチは最小値保持回路側に倒されているので(4)最小値がA/D変換器に導かれています。そして、次のサンプリング・クロックのタイミングでA/D変換されます。最小値保持回路は、A/D変換が終わるとクリアされます(3)。
また、最大値・最小値切り替え信号(4)がHIGHになり、スイッチは、最大値保持回路側に倒された最大値がA/D変換器に導かれます。最大値保持動作は、続けられ次のクロックでA/D変換されます。A/D変換が終わると最大値保持回路はクリアされ、また、スイッチも切り替わります(4)。この繰り返しにより、サンプ リング・クロック間のピーク値を逃すことなく全波形を取得します。被観測信号(5)で●印は通常のサンプリング・モードで捉えられる点で、△印と○印が、それぞれエンベロープ・モード時の最大値、最小値として捉えられた点になります。この最大値最小値が交互にメモリに記憶され、A/D変換されて波形として表示されます。このようにエンベロープ機能を使うことにより、グリッチや振幅変調波(1-34図)をより忠実に再現することができます。