オシロスコープの性能と選び方

 オシロスコープも、研究室での実験や、生産ラインでの調整・検査、サービス部門での保守などさまざまな用途にお使いいただいています。
 これらの目的に最も適したオシロスコープをお選びいただくためには、オシロスコープがもっている特長を充分にご検討いただく必要があります。

<垂直増幅部>

周波数特性および立上り時間

 オシロスコープで周波数帯域は、DC~何MHzと表されます。この何MHzというのは、周波数特性が3dBまで減衰してもよい上限の周波数を表しています。
 例えば、10MHzのオシロスコープでは、周波数特性はDC~1MHzまでほとんど平坦で、それより高い周波数になるにしたがって少しづつ減衰していきます。
 そして、10MHzでは最大3dB減衰(0.707倍)していることになります。1kHzの正弦波の振幅かブラウン管で4div振れているとき、同じ電圧の10MHzの正弦波を加えても、4×0.707=2.8により、2.8divしか振れません。もし、10MHzでも4div振らせたいときはもっと広帯域のオシロスコープ、たとえば、100MHzのオシロスコ ープが必要になります。また、パルスの立上りを観測する場合には、次のような点に注意をする必要があります。
  観測するパルスの立上り時間によって、どんな帯域のオシロスコープを用意するかが決まります。観測するパルス波形の立上り時間をta、オシロスコープの立上り時間をtsとすると、ブラウン管面に表示される波形の立上り時間はtoは

となります。
 したがって、オシロスコープの立上り時間が大きいと、ブラウン管面上で観測されるパルスの立上り時間は、実際のパルスの立上り時間より大きくなってしまいます。
 オシロスコープの立上り時間と観測するパルスの立上り時間が近い場合には、測定した値を前式によって修正しなければなりません。
 1-6図は各種のオシロスコープの管面測定した立上り時間toと、真のパルスの立上り時間taとの関係を図示したものです。
 この図で、たとえば、実際の立上り時間30nsの波形を17.5nsの立上り時間をもったオシロスコープSS-7802で測定した場合にはブラウン管面で約35nsとなってしまいます。この場合、SS-7811ではそのまま30nsと観測されます。信号の立上り時間を3%以内の誤差で読むために オシロスコープでは、測定するパルスの立上り時間より4倍以上小さい値の立上り時間のものを選ぶ必要があります。
 周波数帯域DC~100MHzのオシロスコープSS-7811の性能で、立上り時間3.5nsとは、立上り時間0のパルスを入力したいとき観測される立上り時間が3.5nsになるということです(1-7図)。
 この立上り時間tsは周波数帯域の上限値と次の式のような一定の関係にあります。

 また、同じパルス観測でも、パルス幅やパルスの繰り返し時間を測定するときには、それほど立上り時間を問題にする必要はありません。パルスの平坦性を観測するようなときには、直流から高周波までの周波数特性が優れたオシロスコープを選ぶ必要があります。岩通のオシロスコープはこの点でも充分な配慮がなされており安心してご使用になれます。

1-6図

1-7図


感度

 観測信号を入力端子に加えるとブラウン管面上に波形が描かれますが、その振幅を適当な大きさで表示させるためにはオシロスコープの増幅器の増幅度を調節する必要があります(実際には入力減衰器と増幅器の組み合わせで行われる)。カタログの中で、感度□mV/div ~□V/div という記載がされていますが、これはブラウン管面上で垂直方向に1div振らせるのに必要な電圧の最小値から最大値までを表しています。
 たとえば、SS-7811で5mV/div~10V/divということは、増幅度が最大とのきに1div振らせるための電圧が5mV、増幅度を最小にしたときに1div振らせるための電圧が10Vということです。
 したがって、30mVの振幅の信号を観測するときは、VOLTS/DIVを5mVに設定すると、ブラウン管面上でちょうど6divの振幅の波形が得られます。
 また、0.5Vの振幅の信号は、VOLTS/DIVを0.1Vに設定すると、ブラウン管面上でちょうど5divの振幅の波形として観測できます。60Vという大電圧を加えるようなときには、VOLTS/DIVは10Vのレンジにする必要があります。
 このように、観測したい信号の大きさによって必要となる感度を持つオシロスコープをお選びください。

信号遅延

 オシロスコープは、前にも述べたように入力端子に加えられた信号減衰器や増幅器を経てブラウン管の垂直偏向板を駆動し、一方、入力信号の一部がトリガ回路に供給され、そこでトリガ・パルスに整形され、これが水平掃引用ののこぎり波を発生し、のこぎり波は増幅されてブラウン管の水平偏向板を駆動しブラウン管面上に波形を描かせます。垂直部は、増幅器を経由するだけなのに対し、水平部は、トリガ回路、掃引回路、増幅器を経由してブラウン管に到達します。
 そのため、立上りの速いパルスの観測をするときに立上り部でトリガをかけると、のこぎり波が水平偏向板に到達したときには、すでに垂直信号は立上りの後の部分になっており、ブラウン管面上で立上り部は、観測できないことになります。
 そのため、垂直部に遅延ケーブルを入れても信号が垂直偏向板に到達する時間を遅らせて、立上り部分も観測できるようにしています。
 しかし、小型のものや簡便形のもののなかには、この遅延ケーブルが付いていないものがありますので、用途や目的に応じてオシロスコープをお選びください。

入力インピーダンス

 通常カタログに示される通り、本体直接で1MΩ数10pF、付属プローブをご使用になりますと、10MΩ10数pFとなります。入力インピーダンスは、周波数が高くなるとほとんど容量により決定されてしまいますので、50Ω等抵抗値の低いものもあります。耐圧は直接で通常500Vp-p、プローブ使用時600Vp-p、低インピーダンスの場合は指定値までです。用途によってお選びください。
  減衰比が10:1以上のプローブ、FETトランジスタを使ったソースホロワプローブも別にあります。水平掃引部水平掃引部はのこぎり波を発生し、垂直増幅器に入った入力信号を、のこぎり波の時間を選ぶことにより、適当な時間幅で左右に拡げる装置です。

<水平掃引部>

 水平掃引部はのこぎり波を発生し、垂直増幅器に入った入力信号を、のこぎり波の時間を選ぶことにより、適当な時間幅で左右に拡げる装置です。

掃引時間

 掃引時間とは、ブラウン管面上で輝点を水平方向に1div移動させる時 間のことをいいます。
 たとえば、SS-7811の場合、掃引時間は20ns/div~0.5s/divですから、1-8図のように20ns/divのレンジでは50MHzの波形1サイクルを1divで観測できます。また、反対に、非常に低速の現象を観測するときには、管面の左から右へ10div掃引させるのに、0.5s/div×10div=5秒という低速掃引が便利になります。

1-8図 SS-7811の掃引時間

1-9図 オシロスコープのブロック図

掃引拡大

 1-10図に示すように、掃引時間を速くすることによって、掃引の始まりの(トリガ点に近い)部分は拡大して観測することができますが、トリガ点から遠い部分は観測することができません。
 掃引拡大は、掃引時間はそのままの状態で1-9図の水平増幅器の増幅率を上げ、ブラウン管面上の実質掃引時間を拡大する機能で、水平軸の位置調節により、掃引の全域にわたって波形を拡大観測することができます。SS-7811の最高掃引時間は20ns/divですが、この掃引拡大を用いると、実質最高掃引時間は2ns/div になり、100MHzの波形の1サイクルを5divに拡大して観測できます。

1-10図

遅延掃引

 オシロスコープは、入力信号によって掃引用のこぎり波発生器を駆動することは前に説明した通りですが、場合によって入力波形の任意の一部分だけ見たいこともあります。この場合は、垂直軸に入力信号が入っても波形の始めの部分で掃引させずに、見たい部分が到達するまでの掃引のスタートを待たせればよいわけです。掃引遅延回路がなくても、同期の選択により立上り部分、下降部分は充分拡大して観測できますし、中央部分は拡大器により、拡大して観測できます。掃引遅延回路があればさらにそれ以外の任意の部分でも充分拡大して観測することができます。またこの掃引遅延回路は、この外にも種々便利な使用法がありますので、機種選定にあたって充分ご検討ください。掃引遅延回路は、機種により省略してあるもの、時間の異なるもの、テレビ波形を観測するのに便利なもの等があります。

1-11図

単掃引

 オシロスコープはトリガ掃引なので、入力信号が単発、すなわち一度しか発生しないような波形でも必ず左端から一度だけ掃引しますから、目で見たり写真撮影したりすることができます。
 しかし、1-12図のように、そのたびに変るような波形では掃引が終わると次の波形が再びトリガ回路を駆動し、掃引を開始してしまいます。この場合波形が次々とブラウン管面に現われ、それが残像によって何本にも見えますので見分けがつかなくなります。単掃引装置は押しボタンを押しておけば、その後最初にきた1つの波形(電圧)のみで掃引し、その後いくら入力信号がきても掃引しませんので、複雑な波形を写真撮影する場合等に大変便利です。弊社オシロスコープは、単掃引装置のついているもの、いないもの両方ございますのでご承知ください。

1-12図

ブラウン管

 ブラウン管はその性質上、加速電圧を高くするほど明るくなり、同一 電圧では掃引速度を速くするほど暗くなります。弊社オシロスコープ は、帯域幅および掃引時間内で充分ご使用になれるよう、ブラウン管の種類、加速電圧を選定しています。 従って、通常特にご心配いりませんが、掃引の特に速いレンジで単掃 引を行うことなどが多い場合にはなるべく明るい機種をお選びください。
 また、残光時間は特にご指定のないかぎり、ほどよい残光のブラウン管を使っておりますが、残光時間の短いもの、長いもの、写真撮影に適したものなどがありますから、ご相談ください。

CRTディジタル・リードアウト機能

 最近のオシロスコープには、ブラウン管面上に文字やカーソルを表示できるCRTディジタル・リードアウト・スコープがあります。CRTディジタル・リードアウト・スコープはブラウン管面上に各種設定条件やカーソルによる測定値の表示がされますので、観測には便利なだけでなく、写真撮影のときの測定条件などの記録が楽になります。
 1-13図にCRTディジタル・リードアウト・スコープのブロック図を示します。CPUは、現在設定されているパネルの状態を読み込み、それに対応して表示RAMに文字コードを書き込みます。文字発生回路は、この表示RAMに書き込まれた文字コードの文字をブラウン管面上に表示します。
 また、カーソル発生回路はパネルのつまみによって指定されたブラウン管面上の位置にカーソルを表示します。CPUは、カーソルの位置を読み、設定条件から測定値を計算し、表示RAMにその値を書き込みます。同様に、文字発生回路はこの測定値を表示します。ブラウン管は普通のオシロスコープ用のものを使っていますので、観測波形表示と文字・カーソル表示を時分割で行います。そのため、垂直増幅器と水平増幅器に波形文字切換えのためのスイッチング回路が設けられています。

1-13図 CRTディジタル・リードアウト・スコープブロック図